Robert Mallet-Stevensのアパルトマン

9月16日の土曜日は、年に1度の「世界遺産の日」の週末だった。

アール・デコ時代の建築家、ロベール・マレ=ステヴァンスのアパルトマンへの訪問が、ついに叶った。ここ数年、気づいた時にはすでに見学募集枠が埋まっていて、何度もくやしい思いをしていたのだ。

パリ14区の、Saint-Jacques駅から歩いて5分ほどの場所にある。
うれしくて早く着きすぎて、外壁の円形ステンドグラスの写真を何枚も撮りながら待った。

予約の時間になってみると、20人ほどが集まっていた。
中高年の夫婦連れが多い印象で、中には杖をついてよろよろと歩く老婦人のグループも(階段とかあるのに、だいじょうぶなのか)。
建築関連の仕事をしているらしき、若い男性5人組もいた。
外国人は私と、もう1名くらいだったと思う。

特徴ある長細いステンドグラスのある、中庭の奥の建物。

向かって左側2階のロフトタイプのアパルトマンは、アール・デコ時代に名を馳せた画家のTamara de Lempickaが、アトリエとして使ったという(彼女はMallet-Stevensの友人だった)。

建物の住民である若い女性の解説が濃くて長くて良いのだが、あの絨毯を見たいがために集まった全員が、途中からなんとなくソワソワし始める。

やっと建物に入場。

これ!
この絨毯です、見たかったのは!

当時の絨毯制作アトリエが保管していたMallet-Stevensのデザイン画と発注書を元に、15年ほど前に復刻されたという(本物はどこかの美術館に収蔵)。

そして、誰もまだ上っていかないうちに、さっさと上方の撮影をする。
この美しい螺旋!

踊り場から眺めるステンドグラス。

エレベーターのボタン。階数表示のフォントも良い。

スイッチが好きなので横からも撮る。
上のボタンがAppel(呼ぶ)で、下のボタンはRenvoi(送り返す)。
先に上った人は、地上階にエレベーターを送り返すのがマナーだったんだろうか?

みんなが順に上って来るので無人では撮れなかったものの、最上階から見下ろして、ほぼ人間の写っていない状態で撮れた1枚。右下に玄関マットが写ってしまったけれど、ここは人々が暮らしている建物なので。

螺旋の増減で表情が変わり、各階で飽きずに撮ってしまう。

黒い四角いタイル張りの手すり。

エレベーターはつぶれた三角形のような不思議な形で、とても小さかった。

OTISは19世紀創業で今も現役の、アメリカのエレベーターメーカーだ。

さてこの建物、中庭の奥に位置しているのだが、使用人専用の地下トンネルがあるという。使用人が、庭でくつろぐ主人や客人に顔を合わせずに、仕事場である建物に移動できる仕組みだ(パリの通り沿いの大きな古いアパルトマンには、大理石でできたメイン階段と、使用人専用の螺旋階段があるものである)。

薄汚れた扉を開けて、いざ地下へ。

使用人専用のエレベーターの、標識やランプやシャッター。

エレベーターのボタン、また撮っちゃう。
こっちのエレベーターにはボタンが1つしかないんだな。

これがトンネル!けっこう長いのだ。
今は、自転車置き場みたいにして使われている。

トンネルを抜け、通り沿い側の建物のドアから、地上階へ。
こちらのD字型螺旋の階段も美しい。

通り沿い側の建物の階段(ちょうどこの裏側に、地下トンネルへの扉がある)は、直線的なデザインである。
ここまで直線が多用されると、なんかちょっと学校っぽいな。

窓があると人間はつい外の景色に気をとられるものだけれど、ステンドグラスがあると、意識を建物の内側の空間に保ったままにしていられることに気づいた。

ステンドグラスを通ってくる光は一方通行で均質化された明度になるので、陰影に秩序のある、エレガントな雰囲気になるのだな。

この建物が好きすぎるので、来年も行こうかと考えている。