Saint Laurent rive gaucheのジャカードニット

あるヴィンテージ服屋が主催した「洋服1着について語る画像と文章」のコンクールで、入賞者3名の中に私の作品も選ばれたという知らせがあったのは1月11日の月曜日。

がんばって作ったので、文字どおり飛び上がってよろこんだ。夜にはシャンパーニュも開けちゃった。

応募した作品はこれ↓

文字数に制限がないので、みんな過去の思い出の服について長々とエッセイや小説を書くだろうし(実際そうだった)、文章では文学好きのフランス人にはとうてい敵わない私は、戦略を練る。

まだ持っていないけれどいつか必ず手に入れたい未来の1着について書こう。そして、画像については写真での応募がほとんどだと思うので、このために絵を描きおろそう。

2日ほどいろいろ考えてスケッチしているうちに閃きの神様が降りてきて、タロットカードの図柄を拝借するというコンセプトにした。

大アルカナカードの0番「FOOL(愚者)」のカード。

この人物の服を、私がいつか手に入れたい夢の1着に着せ替えて… お供の犬も主催店のロゴマークの犬に替えておこう。巾着袋にはYSLのロゴも入れる。

文章では、Yves Saint Laurentのスモーキングの魅力を、大アルカナカード22枚のシンボルと意味にそれぞれ当てはめて並べた。

「魔術師」のカッティング、「女教皇」の静謐さ、…
「悪魔」とか「塔」とか「世界」のカードには苦戦した。フランス語がわかる人は苦笑してくだされ。


この入賞で獲得したクーポン券を使いに、5日後にはさっそくブティックへ。

1977年春夏コレクション(当時のショーの記録写真がサンダルで、春夏なんだそうだ)の、Saint Laurent rive gaucheのジャカードニット。

1978年Saint Laurent rive gaucheジャカードニット

パリ西郊外のHaut-de-Seine県エリアに第二次世界大戦後に形成された、アルメニア系移民のニット工場街。そこではあまたの有名ブランドのニット製造を請け負っていた… 製造拠点が労働力の安い外国に移される、グローバリゼーションの波が来るまでは。

この愛らしいニットは、稼働をやめてしまったニット工場の倉庫から発掘されたデッドストックだ。ブランドタグはついていないものの、Saint Laurent rive gaucheの品物であることは確か。

クリスマス前に修理前の状態で見せてもらって気に入ったので、リペアから戻ってくるのを心待ちにしていた。大きな穴が1つ前身頃にあったのを、ニットリペアの達人、もも子さんが完璧に修理。

ところが帰宅してから、右袖のつけ根にも穴があるのを発見(店でも試着したのに、ギャザーの部分なので全く気づかなかった)。彼女に連絡したら、すぐに直してくれるというのでアトリエに持ち込ませてもらう。

こんな機会はめったにないので、修理の様子を見せてもらった。

Semoda Knitwear
Semoda Knitwear
Semoda Knitwear
Semoda Knitwear
Semoda Knitwear
指を差されても穴がどこだったのかわからない

もともとの編み方を読みとり、修理の糸をごく自然につなげてなじませていく。全く同じ色の糸は見つからないので、手持ちの糸の絶妙な混色で対応。

リペア跡に厚みが出すぎないように糸の本数を細かく調整し、着ているうちに修理の糸が飛び出してくるのを防ぐために、裏側には少し長めに糸を残す。

妖精の指先の持ち主っていうのはこういう人のことを言うのだな、と感動。

修理しているうちに3つ目の穴を裾のリブ付近に見つけたので、それも直してもらった。デザインの凝ったヴィンテージニット、穴が空いても見えないのでおそるべし。

ウエストの太めのリブといい、膨らんだ袖のデザインといい、サンローラン風味が炸裂していて素晴らしい。平置きよりも着た時のほうが10倍かわいい。

これから先、このニットを着るたび見るたびに、コンクール入賞のことと、リペアしてくれたもも子さんのことを思い出せると思うと、楽しい。