パリ20区(Av. Gambetta)のブロカント | 2020/01 その2

土曜日にヴィンテージ服ディーラーLと話したときに、私が買ったばかりの黒いコートを見て「思い出した、そういうの私も持ってる!明日ここに持ってくるよ、忘れていなければ」と言った。
他に特に行きたいブロカントもなかったので、20区を再訪することに。


前日に黒いコートを買ったスタンドの前を通ると、前日には見なかったツイード地のコートが掛かっている。

いいな、と思って見ていたら、「映画か演劇の衣装ですよ。業界の衣装スタジオの倉庫から出たんです」と、スタンドの主。

1970年代演劇用コート(中世の男性役)

最初は1950年代の女性ものコートだとばかり思っていたのだが、中世の男性役のコートらしい。本当だ、コートの合わせが左上の男性用だ。

ウールだと思っていたら、どうやら合成繊維も混じっているよう(アイロンをかけていて気づいた)。

タグに書かれているMINE BARRAL VERGEZは、1971年にパリ1区で創業し、現存する衣装製作企業。コメディー・フランセーズも近いし、右岸には小劇場が山ほどあるから、演劇関係者の御用達メーカーなのだろう。

パリの電話番号が数字のみ7桁だったのは1955年から1974年まで。ということは、このコートが作られたのは1971年から1974年の間だ。

タグにボールペンで手書きされた「MARECHAL」は、おそらく劇中の役名(または俳優の名前)。

私には肩が少し大きめで、夫にぴったりだった。髭面の夫が着ると、中世の設定だというのに納得する。中世の商人っぽい。マルコ・ポーロが着ていそうな雰囲気だ。

ここではもう1着、別のコートも買った。

1950年代の女性用コート

象牙色のガウンのような形のコートで、ほぼ未着用と思われる。これは1950年代かな。袖口が広がっているところが好きだ。

1950年代の女性用コート

裏地にまんべんなくフリルがついていて素敵なのだ。冬に白いコートを仕立てて着られるとは、さぞ裕福なお嬢様の持ち物だったのだろう。部屋着の羽織りだったとしたら、なおさら贅沢だ。

裾が少し汚れていたのは、石鹸で洗ったらすっかり落ちた。

さらに、モヘアのニットも購入。前日に見ていいなと思っていたのが、よかった、まだ売れていなかった。

1970-1980年代手編みニットカーディガン

クレイジーな色づかいとモチーフが最高な手編みで、ボタンも楕円形の凝ったデザイン。

1970-1980年代手編みニットカーディガン

1970年代後半から1980年代あたりのものだろうな。無地のニットは今の世の中にもあふれるほどあるけれど、こういう気の利いた模様のものは本当に少ないし、高い。黒い長めのスカートとか、白いワイドパンツと合わせると良さげ。


さて、この3つの買い物の大荷物を持ったまま、Lのスタンドへ。Lは接客中で忙しそうだったので、またラックの端から順番にチェックする。

前日に話していた1950年代の黒いシルクのコートは、すぐに見つかった。
七分丈の太めの袖、襟元の大きなビーズ付きボタン、裾に向かってゆったり広がる身頃のライン、どれを取っても完璧な理想形だった。

すっかり買う気になって試着していたらLがやってきて、「最高でしょう?でもね、今朝これを出している時に、うちの猫が飛びかかって引っ掻いちゃって…」と背中の上の方を指されてびっくり、5センチほどもある鉤裂きが!あああああああ…

尊いお猫様の気まぐれとはいえ、悲しい。これは私には修理できない、と断念した。

そうこうしているうちに、前から気になっていた1980年代のワンピースを、ある女性が試着しはじめた。薄いグレーの地全面に朱赤の大きな花のシルエットが散りばめられた、ふくらはぎ丈の直線的なワンピース。

けっきょく彼女はその場では買わなかったので、私も着てみることにした。他人が着ているのを見て改めて魅力に気づく、というのはよくある。

似合う。ハンガーにかかっている時よりも、着た時の方が数倍よく見える。これは買うべき。

現金を調達しに駅前のATMまで行って、足早に戻ってきたら、Lのスタンドが最高潮に混んでいた。

しばらく座って支払うタイミングを待っていると、さっきワンピースを試着していた女性が戻ってきて、何やら探している。私は反射的に「もしやこのワンピースを探していますか?」と話しかけた。

「あなたの方が先に見つけたのだし、もし買われるのなら私は諦めますよ」と言ったのだが、一瞬考えたのちに「いいです」と去って行った。
なんだ、じゃあやっぱり私が買おう。さらに支払いのタイミングを待つ。

すると、5分ほどしてまた、その女性が戻ってきた。「やっぱり買いたいんですけど」と。買い物の決断に時間がかかるタイプの人なのだな。

「ではどうぞ」と譲り(私には常に他にも買うものが山ほどあるし)、手元は空っぽになった。

さて、坂道を往復して現金を下ろしてきたのだし、なにか買うものがあれば…と思ったら、Lがプッチのスカーフを出してきた。大判のものは何度か見せてもらっているのだけれど、小さなタイプは初めてだ。1970年代ごろの品物。

1970年代エミリオ・プッチの小版スカーフ

2つあった中から、LとB(Lの友人ディーラーで、たまたま遊びに来ていた)が「絶対こっちでしょ」と言った方に決める。たしかにこっちの方が顔色が良く見える。

丸首ニットの襟元に巻くのにちょうどいい大きさ。