Saint-Cloudのブロカント | 2017/03

毎年春に電車とトラムを乗り継いで訪れている、パリ西郊外のブロカント。

午前中は小学生のパレードで大混雑するので、昼頃に現地に着くよう家を出た。
この時期は線路沿いに桜が咲いていて、それも楽しみにしている。

駅前の坂道沿いのパン屋で買ったサンドイッチを手に、いつもの順番でスタンドを見て回る。

毎回来ているものだから、どの辺にどの人がどんなスタンドを出しているかも、だいたい把握している。

「あ、まだあの置き物は売れないんだな、もう3年越しでは」などと思いながら、亀の歩みで進む。とにかく人が多いのである。

前年に19世紀の兵役生活の風刺イラスト入りの皿を買ったスタンドに寄る。
小さなガラス張り什器の中に、見るからに高貴な第二帝政期デザインのオブジェが。

見ただけで予算超過必至なのだが、せめて間近でじっくり眺めてみたいと思い、スタンド主に話しかける。

「これ、実は見えない場所に欠陥があって…」と前置きしつつ、手に取らせてくれた。

動物の角でベッコウ風のイミテーションが安価に作られるようになったのは、18世紀半ばにまで遡るらしい。意外と歴史があるのだな。

この品も動物の角製(おそらく水牛?)で、表から見るとグレー。
光に透かして内側から見ると、マーブル状の模様が浮かび上がる。
本鼈甲に比べれば、明らかに透明度も明度も落ちるけれど、このマットなグレーの色合いと質感も捨てがたい。

金具の部分にも装飾の彫りが施されている。
この中にいったい、貴婦人のどんな持ち物がしまわれていたのかと、想像がふくらむ。

さて、問題の欠陥とは、外殻の下の一部欠損であった。

なんだ、このくらいなら私には全く気にならない。上面からは見えないのだし。
表面がスベスベなので、手元が狂ってうっかり落としてしまったんだろうな。

試しに10倍率のルーペ越しに撮影したら、細工の美しさがよく見える。

同じスタンドで、銀製のコーヒースプーンも見つけた。

アール・ヌーヴォーの時代だとひと目でわかる。
植物的な優雅な曲線で象られた、半裸の女神のような意匠。

銀メッキではなく、銀製だという。

「右を向いて駆けるイノシシの姿」をかたどった刻印だとばかり思っていたのだが、そんな刻印は存在しないらしい。

しばらく検索しているうちに、左に頭部のあるCharançon(ゾウムシ)の刻印であることが判明。

確かに、イノシシにしては前脚が3本とは、多すぎるかなとは思っていたのだ。

1893年に枠つきで改訂された、パリの貴金属鑑定所の「輸入品銀製品用」の刻印である。ということは、フランス製品じゃなくて輸入物だ。

ヨーロッパだろうとは思うけれど、どこの国だろう。
2個目の刻印が、楕円にEOの文字に見える(めちゃくちゃ小さいから見まちがえている可能性もある)のを手がかりに、調査継続中。